2015年10月15日木曜日

復職の目安 〜「復職できるかどうか」という不安を抱えながらも、リワークを卒業することの意義〜

リワークに参加しているメンバーさんにとって、
「自分がいつリワークを卒業し、復職できるのか?」
という問いは、非常に葛藤的で不安に満ちた問いです。
職場での仕事で苦しみ、うつ病になり、休職になった方たちが、復職を目指してリワークに集まっているわけです。
しかし、その職場に戻っていくことは、大きな不安が伴います。

 職場での人間関係に悩んでいたメンバーが元の職場に戻る際には、「嫌な上司や苦手な同僚がいるところに、同じように戻って行かなくてはいけいない」と、不安でいっぱいになるでしょう。
 「他人を変えることは難しい。だから、あの上司も同僚も、きっと変わっていないはず。戻って一緒に仕事をしたら、前と同じように辛い目に合わされる」と不安になります。

 仕事が多くて業務過多になっていた人は、「職場に戻った時に、業務配慮してもらえるだろうか」心配でしょう。
 「戻った当初は配慮してもらえても、復職して半年経ち、一年経ったら、業務配慮も終わり、残業も増えて、また激務に追われるのでは」と不安になります。

 休職したことで職場を離れて、それによって同僚や上司に迷惑をかけている、という負い目がある人はどうでしょうか。「復職してみんなと顔を合わせることには、強く抵抗感や罪悪感、恥ずかしさでいっぱいだ」と、復職することが嫌になるかもしれません。
 「戻っていった時、どういう目で見られるか。休職して穴を開けたことで、きっと周りは迷惑だと感じているかもしれない。そういう視線を浴びながら、萎縮して復職しなくてはならない」と想像して、不安に陥るかもしれません。

 以上のようなケースですと、同じ場所に復職することは、不安と葛藤と不快な気持ちを伴います。そんな職場に戻るくらいなら、「異動」や「転職」をしたいと思うことだってあるでしょう。

 しかし、上記したような不安や考えが、あまり根拠のない思い込みである可能性はあります。復職に際して湧き上がってくる不安には、何らかの主観性の偏りがある場合もあります。もっと柔軟な考え方を導き出して、不安を軽減させて、復職に向かおうという気持ちを保持することは大事なことです。

 リワークとは、復職を目指すグループの治療的な取り組みです。
 よって、復職に際しては、メンバーさんが現在、どれくらい復職のための準備が整っているかをリワークで検討していきます。「復職可能性」という治療的な根拠を大事にしています。
 
 何よりも、目に見える復職のための材料は、リワークへの出席率です。
 リワークでは、メンバーさんが復職して定時まで働けるための目安として、リワークに遅刻や途中退席することなく、ほぼ皆勤で2、3ヶ月は通えることとが必要だと考えています。

 復職できることとは、単に元気になって不安が消えてしまっていることを意味しません。復職にあたって、不安や心配はあって当然です。仕事でストレスがあるのは当然です。
 ですから、大事なことは、不安やストレスに対して「欠席」という行動をするのではなく、不安を携えながらも休まずに職場に通えるようになることです。
 職場に行って、そこで同僚や上司などとのコミュニケーションを用いて、不安を乗り越えられることが、本質です。
 それでもやっぱり職場でのコミュニケーションでは解決しにくい不安については、復職後も、診察とアフターリワークという治療を使いながら、乗り越えていけることが大事です。

 以上のことを、リワークになぞらえると、次のようになります。
 つまり、リワークに通っている間に、リワークの中で、(職場と同じように)不安や心配を経験することです。
 それは、メンバー同士での対人関係の悩みかもしれません。
 苦手なプログラムへの不安かもしれません。
 リワークで悩んだ時、苦しんだ時、不快になった時に、リワークを欠席するのではなく、リワークにちゃんと来られるようになることです。そして、その悩みを、スタッフと相談し、さらにはメンバー同士で話し合って、リワークの中で乗り越えられることです。
 こういう体験がリワークでできれば、その人は、職場に戻ったときに、同じことが職場で起こっても、今度は職場を休まずに、職場の中で主体的に問題を乗り越えられる可能性が高くなります。

 毎日リワークに通えて初めて、いろいろなプログラムを通じて、休職に至った自分自身について振り返り、考えることができます。
 出席がままならないと、このようなリワークの中身の作業ができません。
 
 自分だけで考えるのではなく、スタッフとメンバーが、あなたと一緒に考えます。
 そして、休職の理由を、職場環境の外的要因だけでなく、自分自身の中にある問題としても見ていきます。それができるかどうかです。
 復職にあたっては、自分自身の課題やテーマに、苦しいですが、向き合います。
 そうした経験をリワークで毎日積み重ねていくことが、その人に何らかの変化をもたらすかもしれません。
 自分自身を知る経験が、適切に行動することと相互作用します。
 リワークでのこうした実績が、その人が職場に戻っていった時に、休職前とは違うように自ら考え、行動することに繋がるでしょう。

 復職することには不安が伴います。
 その不安を携えながら、しかし復職という現実に踏み出すことが必要です。
 
 しかし、復職という現実に踏み出すことを回避し続けることも起こります。
 リワークへの在籍期間がだんだん伸びていくと、いつしか、その人にとっては、リワークが現実からの逃避場所になっていきます。
 復職するために参加したはずのリワークが、復職を先延ばしし続けるためのリワークに成り果ててしまうのです。
 リワークに毎日通えるようになり、リワークでの体験が充実してきて、仲の良いメンバーができてくると、リワークが居心地良くなります。
 この体験自体は、とても意味のある、大事な体験です。
 休職して閉じこもり、自分を相手も信用できず、暗い気持ちで一人悩んでいた状態から、人と接することに喜びや楽しさを感じ、一人ぼっちではなくて、リワークという居場所を見つけられるところまで来たのですから。
 
 しかし、リワークは、終わらなくてはいけません。
 それが三ヶ月になるのか、半年になるのかわかりませんが、必ずリワークは終了します。
 リワークとは、その方が再び社会復帰していくプロセスの中に位置づけられて、初めて意味を持つ人生の時と場所です。
 リワークでの居心地の良さを、長々と続けていくことはできません。
 それは、本来のリワークの目的(復職や社会復帰を目指す)が、完全に転倒してしまっている状態だからです。
 リワークを終えて、巣立つこと。
 厳しくはあるけれども、その人が働ける場所に、また戻っていくこと。
 そのために、リワークはあるのですから。

 そして、あなたが旅立った後のリワークの席には、かつてのあなたがそうであったように、休職して今後の見通しも持てずに不安でいっぱいの、新しい参加者が、座ります。
 その席は、順々に、譲られ、受け渡されていくものなのです。

 さて、復職という現実に向かうためには、職場と連絡をとり、職場と話し合いをしていくことが大事です。
 一人だけでは怖くて職場と連絡をとれなかったかもしれません。
 しかし、リワークではスタッフが一緒に手伝います。復職するにあたって職場への不安や不信感があったとしても、それは職場と直接コンタクトを取って話し合うことなしには、変化もしません。

 職場を拒絶し、敵対し、不信感でいっぱいでは、復職は成功しないでしょう。

 そして、こうした不信感の原因を、いつまでも職場だけに求め続けている状態では、その人がリワークを利用する意味がないことは、ここまで読んできた方たちには、自明のはずです。

 「なぜ自分が職場を信じられないのか、拒絶しているのか、敵対してしまっているのか」ということを、リワークで考えることです。
 そういう自分を見つめて考える作業をしながら、実際に職場とのコンタクトと話合いを続けることで、その方の職場との関係の性質が変容していくかどうかが、復職の成功の鍵を握ります。
 不信が全部消え去ることはないでしょう。
 しかし、「不信感を持ち続けている自分自身とは、どういう自分なのか」と考えられるようになっていれば、職場への不信感にも揺れが起こります。
 それは、職場の問題をひたすら指摘する状態から、自分自身の中にあった課題や問題に向き合っているからです。
 これが、休職中にリワークを使う意義です。
 
 復職にあたっては、職場によっては、復職トレーニング(リハビリ出勤、ならし勤務)を利用できます。
 リワークに居続けるだけでは、前進しない悩みもあります。
 ですから、実際に少しずつ職場に行くことです。そして、リワークも同時に利用しながら、現実に直面して初めて知る出来事と不安を、リワークで考えて、乗り越えていきます。

 リワークに参加されている皆さんには、今の自分が復職へのプロセスのなかで、どこにいるのかを、考えてもらいたいと思います。
 「欠席が多く、出席率も低い。今は、毎日休まずにリワークに行こう」というところにいるのでしょうか。
 「自分自身の課題に向き合うことを始めたけれども、やっぱり苦しくて辛くなっている」のでしょうか。
 「リワークが楽しくなってきたけれども、逆に居心地が良すぎて、職場を遠ざけたい気持ちが出てきている」でしょうか。
 「そろそろ復職だと感じているけれども、職場の人と会って話し合うことに、二の足を踏んでいる」のでしょうか。
 「それとも、もう自分はリワークでやることはある程度やった、不安はあるけれども、あとは現実の職場に戻ってみよう。そして、私の席を、次の人に譲ろう」という決意を固めているのでしょうか。




3 件のコメント:

  1. とても共感のできるお話でした。
    リワークとは長い人生の中のひとつのプロセスであり、それを終えることでひとつの体験として価値のあるものとして初めて捉えることができるなと思いました。

    卒業して半年になりますが、このリワークの体験は復職というミクロな視点のみならず、マクロな視点で見ると、今後の人生も含め、大きく役立っていると実感しています。

    私はちょうどリワークの世界にどっぷりとはまりそうだったので、卒業するタイミングにおいてもよかったのではないのかなと、この記事を読んで、振り返ってみて、そう思いました。

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  2. 何処に行けば苦しみを愛せるさん、
    コメントをありがとうございます。
    ご自身にとって、休職中でリワーク過ごした日々が、人生において意義あるものだと感じられているとのこと。
    その体験を大事にし、今後も現実の世界と向き合っていって頂きたいと、思っています。

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  3. 友人が会社を休んでいます。このクリニックを見つけて、ブログを読みました。
    リワークという治療がどういうものか、少しイメージできました。復職への導きが、患者さんに寄り添うかたちで行われているのですね。友人に知らせたいと思います。

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