2019年3月14日木曜日

リワークの中で自分自身に出会う〜職場の頃の自分との再会、子どもの自分との再会〜


リワークは復職を目指す集団です。
「集団」というと、どういう集団を連想しますか?
リワークに関心がある方は、職場を真っ先に連想するでしょう。
学校もそうです。
保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学。
クラスや部活といった集団から、友人関係に基く集団まで多様です。

家族もそうです。家族は、私たちにとって起源的な集団です。

集団と一口に言っても、その集団が形成される目的は、違ってきます。

集団が違えば、そこで出てくる自分の側面も違ってくるでしょう。

さて、リワークという集団です。
リワークに参加すると、どういう自分が出てくるのでしょうか。

私たちスタッフが考えているのは、リワークの中で、職場にいた頃の自分が出てくる、ということです。

リワークの中で、職場の自分と再会するのです。

●職場で困っていたことを全然言えないままだった人は、リワークで困ったときに、言うことができない。
●職場で苦手な同僚とは関われなかった人は、リワークでも苦手なメンバーとは関われなくなる。
●職場で業務が分からなくなっても解決できないまま放置していた人は、リワークのプログラムで分からないところが出てきても、質問せずにそのままにしてしまう。

リワークの中で、職場の自分と再会することは、とても大事な治療体験です。
リワークのいる間に、職場の自分と再会できないままだと、休職した時の自分をリワークで乗り超えようと挑戦する体験が持てないままになってしまいます。

リワークが単に楽しい場所になってしまうことの危険性は、ここにあります。
それでは、職場からの逃避です。
職場で休職に至ったときの苦しんでいる自分と、リワークで出会うことを避けているわけです。

リワークが安心できる場所になることは大事です。
しかし、この安心感が、職場という現実からの逃避になっていないのか?
スタッフと一緒に、その都度、点検していく必要があります。

リワークは、子供の自分が出やする場所でもあります。
私たちは、大人になっても子供の部分を心の中に持っています。
子供の部分がリワークの中で再現される。
子供の自分との再会です。
一体どういう子供と再会するのか。

●甘えたい子供。依存したい子供。
●わがままを言いたい子供。
●反発したい子供。挑発したい子供。
●親の顔色を窺う子供。
●家族の中の対立や衝突を、何とかして防ごうと自己犠牲的に振る舞う子供。

私たちは職場では大人として機能しなくてはいけませんでした。
リワークという場で内面を他者に表現することを体験すると、子供の自分が現れてきます。
子供の自分が満たされないままに年を重ねてきたことが、対人関係での行き詰まりの背景にあることは十分に考えられます。
休職においてもそうです。
子供の自分は、愛情と憎しみ巡る葛藤を解決できないままにいるかもしません。
自分の意思を表現することを恐怖している子供が自分の中にいるのかもしれません。
職場での行き詰まりは、子供の自分の苦しみの再現かもしれません。

リワークの中で、子供の自分に再会した時、その苦しみは非常に深く、どう手を付けていいか分からなくなるかもしれない。

リワークは、復職を目指す治療の場です。
その意味では、現実に向かう治療です。
一方、子供の自分は、普段意識している現実場面では、表出しにくい部分です。
ですから、子供の自分は、無意識的です。空想的な経験の中で、その姿を鮮烈に現します。

リワークの中で、苦しんでいる子供の自分に出会う体験は、とても深い治療的経験です。

その一方で、リワークでは現実的な復職に向かう必要がある。
つまり、大人としての自分を作っていく必要があります。

リワークの経験を持ったメンバーの中には、治療経験とは、単に症状を消すに留まらない経験だと考えるメンバーもいるかもしれません。

私もそう思います。

リワークという集団、職場という集団の中で、自分自身が気付かないままできた姿に、とうとう出会ってしまった。
それが、「自分をもっと知らなくてはいけない。もっと知りたい。知らないままで人生を過ごすわけにはいかない。」という内側からの動機付けにつながることがあります。

そうなったときに、治療という経験は、自分を知る経験になります。
それは、自分で見たくなかった自分の姿を情緒的に知っていく経験です。
こうなったとき、治療は一つの成長過程です。
子供の自分を、育て成長させる過程です。

復職を目指すリワークでは、この意味での治療には限界もあります。
しかし、その過程へのきっかけには、なりうるかもしれない。

成長としての治療は、リワークから離れた後も、続くのです。
続けることができるものです。

復職という現実に向かうリワークを通じて、自分を知る作業や経験に開かれていけることを、私たちスタッフも手伝っていければと思っています。