2016年12月2日金曜日

一日の過ごし方を知ることは、自分自身の生き方を知ること〜セルフチェックの時間〜

リワークのプログラムの一つに、「セルフチェック」があります。このプログラムは、復職に向けて、規則正しく健康的な生活リズムと生活習慣の実現を目標とするプログラムです。
リワークに参加するようになると、一日をどのように過ごしたか毎日記録します。

まず、睡眠です。
起床就寝時間を書きます。時間だけでなく、その質についても注目します。例えば、ベッドに入っても眠れない日があるかもしれません。布団に入った時間と眠りに落ちた時間に違いがあるときは、それも記録しておくとよいでしょう。目が覚めた時間と布団から出た時間が違うときも同様です。
夜中や早朝に目が覚めて眠れなくなったら(中途覚醒や早朝覚醒と言われるものです)、記録します。
リワークから帰宅後、夜の就寝までに眠ったり、休みの日の昼寝があったら、今の睡眠時間では足りないというサインかもしれません。あるいは、リワークのプログラムでの活動の仕方に無理があったのかもしれない。睡眠生活の状態は、覚醒生活との相互作用です。睡眠を単体で検討するのではなく、起きているときにどういう過ごし方をしているのか、振り返る必要があります。起床後と日中の眠気の有無をチェックして、通常の夜の睡眠以外の睡眠があったら、しっかり記録して、検討しましょう。
「睡眠がどれくらい安定しているか」、つまり、「毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるという一定したリズムが、どれほど確立しているか」は、復職に必要となる精神面での安定性と自己コントロール能力を、かなりの程度示唆しています。
精神的危機と、日中では解決されなかった不安が、私たちの睡眠生活を脅かします。不安を自覚していなかったとしても、いつもと同じ時間に眠れなかったり、起きられなかったり、寝つけなかったり、途中で目覚めたならば、何かが今の自分を休ませてくれないのかもしれません。
リワークに参加することで、この兆候に気付けるようになりましょう。睡眠に関して、いたずらに不安を嵩じることはありません。
かと言って、睡眠生活の変化を通じて自分に発せられているサインを見逃し続けていては、休職前と同じことを繰り返しているのかもしれない。
自己への気付き。
自分を考えられるようになること。
それをグループの中での相互作用によって実施することが、リワークという集団療法の本質でした。
セルフチェックも、そういう時間にしたいものです。

睡眠時の記録の次は、覚醒時の過ごし方です。三食の時間を記録しましょう。もちろん、朝食を食べない人は、朝御飯の時間は書けません。起床してから、家を出てリワークに出発する(出勤に該当します)まで朝の時間を、どのように過ごすのか。
リワークでは皆で試行錯誤して、復職に向けて実行可能な朝生活を作っていきます。
朝御飯を摂った上で、遅刻しないように、間に合うように、ある程度ゆとりをもって家を出ることを考えましょう。そうすれば、自ずと目標とすべき起床時間が見立てられるでしょう。
ここで言う「間に合う時間」とは、当面はリワークの開始時間である10時30分を意味します。そして、復職時期を具体的に目標に立てたメンバーにとっては、職場の始業時間が、「間に合う時間」となります。それは多くの場合、10時30分よりも早いでしょう。
リワークに在籍している間に、職場の始業時間に合わせて家を出られるようにすることを、是非とも実行します。逆に言えば、職場の始業時間に間に合うように起床して家を出られない状態では復職は困難である、と判断できます。
復職に必要な朝の過ごし方の実現は、日中と夜とをどのように過ごすか、ということに影響されます。特に、朝の起床時間が整うためには、適切な時間に就寝する必要があります。睡眠に関する目標を立てるときは、常に起床時間と就寝時間とをセットで考えましょう。「今の自分にとって、何時に布団に入るのが心身の休養となるのか」を、リワークにいる間に発見することです。そして、それを行動に移せるようになることです。

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リワークで生活改善に取り組んでいても、なかなか上手くいかないことがあります。例えば、Aさんはリワークで生活記録を毎日つけて、生活習慣の目標を立てました。「夜11時半就寝、朝7時起床」という目標です。しかし、それがなかなか達成できない。7時に起きられない。
この場合は、何が目標達成を阻害しているかを、リワークにいる間に検討することが大事です。
場合によっては、Aさんが7時に起床するには、11時半就寝では遅すぎるのかもしれません。睡眠時間が実質8時間確保できないと、日中の疲労が取れない状態かもしれない。このことが経験的に推測できたら、就寝時間をもう少し早めることで、7時起床の達成度が高まるかもしれません。

復職の必要条件である規則正しい生活がなかなか達成できない人は、個別にしっかりと、その事態を考えることです。理由は複雑かもしれない。
身体生理的側面からの検討と、精神的・心理的側面からの検討、そのどちらも必要です。そして、「こころ」と「からだ」は、相互に影響し合っている。

セルフチェックというプログラムにおける力動も、影響を与えているかもしれません。
リワークに参加する前は、生活が非常に乱れていて、ガタガタだったBさんが、セルフチェックに参加することで、見違えるほど生活が整ったとしましょう。ここには、Bさんの生活改善に向けた工夫や努力が、もちろんあることでしょう。
それだけでなく、グループにおけるメンバー・スタッフからの対人的影響も、無視できない。
スタッフとメンバーの前で一週間の生活を報告するという行為に対して、Bさんが影響を受けていて、それが生活の変化(この場合は改善)に表われた可能性です。
仮に、Bさんが、スタッフにすごく自分の頑張りを認めてもらいたくて、評価してもらいたい、という欲求がとても高いとき。目標が達成できたことを、セルフチェックでスタッフから褒められた、とBさんが主観的に体験したら、スタッフから褒められたり気に入られたい、という無意識的の目的が、生活改善の実現とその報告として、表現されているかもしれません。
その逆の場合もあるでしょう。生活が良くならないとスタッフから否定される恐怖心が強くなる人や、生活改善ができているメンバーに対する劣等感を感じる人もいるかもしれません。
セルフチェックという生活改善を目的としたプログラムではあっても、そのメンバーの無意識的な人間関係の持ち方が、対スタッフ、対メンバーに、いつのまにか出てくることがありのです。このことに気付けるようになることが、自分の無意識的なコミュニケーションの性質に気付けることに、繋ります。

その人が、リワークでは表立っては言えないけれども、実際は復職したくたいという欲求を密やかに持っているときも、生活がなかなか復職に適した状態にならないでしょう。
また、復職に必要な規則正しい生活が実現されてしまうと、その人がそれまで依存していたような嗜癖や快感を失いかねないときも、なかなか復職に必要な生活にはならないと思います。
こういう無意識的な問題で生活改善が困難になっているときは、表向きの生活週間目標の達成度をルーチンワーク的に報告しているだけでなく、「一体自分は本当は何に依存しているのか」、「生活改善で何かを失なうことを嫌がってはいないか」という問題を、自らに問うことが必要となってきます。

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「その人が一日をどう過ごしているか」という問題は、言語にならない領域の問題です。つまり、非言語的なものです。行動に属する問題です。
行動とは、そのほとんどが、無意識的な支配を受けています。
一日は、人生の縮図とも言えます。朝起床するという人生のスタート(出生)から、夜眠りにつくという人生の終わり(死)。
私たちが一日をどう過ごしているのか、ということは、私たちが人生をどう生きようとしているのか、ということと地続きです。
セルフチェックは、「復職に必要となる健康的な生活を実現する」という目標を持ったプログラムではあります。
ただ、リワークで毎日の自分の一日の行動を記録し振り返る作業によって、自分が無意識的に一日の時間をどう組織化しているのか、ということが明らかになってきます。
それは、「自分はどういう生き方を無意識的にしていたのか」、「何を欲求しているのか」、「人生をどう生きようとしているのか」といった自分自身の姿を、鏡に映す機会にもなるでしょう。
それを知ったとき、では、私たちは、どうしたいと欲するでしょうか。
生活を変えたいと思うのか、今の生活を維持したいと思うのか。
一人一人が考えていくことになるはずです。

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