2019年9月27日金曜日

「クライエントこそ専門家である」

 カウンセリングには「クライエントこそ専門家である」という言葉があります。私はこの言葉が好きです。
 どれほど専門知識や経験を持つセラピストでも、そのクライエントの人生については何も知りません。クライエント本人が生きる世界について一番よく知っているのはその人自身に他ならないのです。
 そして人生の困難な局面を懸命に乗り越えていこうとする経験は、苦難であると同時に、おそらくセラピストも知らない、本当に得難い貴重なものであるように思います。それは社会全体にとっての財産になり得ると言っていいでしょう。
 みなさんにはこの財産を、これから存分に活かしていただきたいと思います。それは自分自身のためにでもいいですし、身近な人のためや、さらには社会や仕事で役立つものにもできる可能性があります。それによって過去の経験は、単なるつらい思い出ではなく、力や自信に変わっていくように思います。
 セラピストは、どれだけ経験を重ねようとも常にクライエントのみなさんに教えられ、学び続けます。同じ時間と場所を共にできた貴重な時間を、これからも大切にしていきたいと思います。みなさんに感謝申し上げます。

2019年9月18日水曜日

卒業式〜リワークとの別れ、メンバーとの別れ〜

8月、9月のリワークは、復職を果たしてリワークを卒業される方が続いています。先週も、お二人卒業されました。今ごろは、それぞれの職場でお仕事をなさっているのだろうと思います。リワークを卒業し、職場に初めて足を運ばれた日、どのような景色を見られて、どのような出会いがあったのか、どのような思いで職場に居るのか…、やっぱり気になります。

我が子が自立して育って行った時の親心とは、このようなものなのでしょうか…?


さて、タイトルにも書きましたが、リワークには「卒業式」というものがあります。復職が決まると、リワークの最終日が決まります。最終日が決まったら、卒業式の日程を決めます。そして、卒業式を行います。

リワークに卒業式が出来たのは、あるメンバーさんの言葉がきっかけだったと聞いています。

「卒業を決められた方と過ごすための、お別れの時間を作ってもらうことはできないでしょうか」

この方の、この言葉がCRESSで卒業式を行なうきっかけになったのですね。
2018727日にアップをしたブログを見ていただきますと、詳細に当時のことが書かれています。良ければそちらも合わせて読んで頂けると幸いです)

では、卒業を決められた方とのお別れの時間とは、どのようなものでしょうか?
卒業される方と、最後の時間を過ごすのです。卒業される方へ、それぞれのメンバーが言葉を贈るのです。プレゼントを渡したくなるかもしれませんが、モノではなく、「言葉」を贈るのです。その言葉は、いろいろです。そして、言葉は皆さんのこころ(気持ち)でもあります。
「リワークの初日、緊張していた中、お部屋の案内をしてくれたのが、〇〇さんだった。緊張していた自分にとっては、熱心に教えてくれるその姿がお姉さんのように思え、その後も〇〇さんがいるから安心してリワークに通えた」など、その方とのエピソードを伝えられるかもしれません。
もしくは、「もっと話しておけば良かった…」と後悔だったり、その方に伝えたい思いを話されたりすることもあります。

私が印象的なのは、復職が決まったこと、卒業が決まったことを嬉しく思うと伝えられることです。そして、同時に「復職は嬉しいけど、来週からいないと思うと寂しくて仕方ない。だから、複雑な思いだ」と、別れを寂しく感じたり、悲しく感じたりしていることを伝えられることです。
嬉しいんだけど、寂しい。見送りたいんだけど、まだ一緒にリワークで取り組みたい。
これまで一緒に取り組んできたメンバーとの別れを悲しむ。いろんな思いを、別れの悲しみや、復職を嬉しく思う気持ちと共に味わうように、別れの場面は、こころをたくさん使いますし、苦しい体験でもあると思います。

卒業式のある日は、出席率が良いです。体調が悪くても、しんどくてなかなかリワークに足が向いていなくても、「〇〇さんとの最後の時間だから来た」と話される方が、これまでにも何人もいらっしゃいました。この最後の別れの時間を、皆さんがとても大事なものだと感じられているからだと思います。

「卒業を決められた方と過ごすための、お別れの時間を作ってもらうことはできないでしょうか」

この言葉をスタッフに投げかけて下さった方とは、私は直接お会いしたことはありません。だけれども、お別れの時間が欲しいと伝えて下さったことで、今のリワークで、大切なこころの作業に取り組むきっかけを下さったと、とても感謝しています。

さてさて、来週も卒業式を予定しています。来週の卒業式も、この先の卒業式も、私は大事にしたいと思います。

2019年9月6日金曜日

第7回CRESS交流会を開催しました

去る8月17日(土)、第7回CRESS交流会を開催しました。

在籍メンバーさんたちが作った第7回CRESS交流会ウェルカムボード
CRESS交流会は、復職されたCRESSの卒業メンバーと、復職を目指してCRESSに参加している在籍メンバーとの交流のためのイベントです。毎年1回、8月に開催しています。
遡ること第1回の交流会は、リワークプログラムが開始して1年が経った2013年のことでした。


毎月第3土曜日に開催しているアフターリワークの対象者は、CRESSの卒業メンバーです。アフターリワークでは、卒業メンバーが復職してから職場で経験していることを、卒業メンバーとスタッフとともに考えます。復職してからこそ、職場でいろいろな悩みや困り事を経験するからです。アフターリワークのグループディスカッションと個別相談、生活習慣チェックを通じて、卒業メンバーは再発予防に取り組みます。

そんな中で、8月の第3土曜は、通常のアフターリワークではなくて、一年に一度のCRESS交流会を開催しています。
アフターリワーク同様、交流会にも復職された元メンバーが参加されます。
アフターリワークと違うのは、交流会では、現在リワークに参加して復職を目指している在籍メンバーが、卒業メンバーからお話を聴くのです。
だからCRESS交流会を開くために、スタッフと在籍メンバーとで協力して準備をします。
「グループ作業」の4回分のプログラムを使って、在籍メンバーが交流会の準備をしてきました。
メンバーの中からリーダーを選出しました。当日はどういう係が必要なのかを、過去の交流会を参考にしながら検討しました。準備作業のためには、作業グループに分かれて、当日に向けて準備してきました。



CRESS交流会の会場。
普段のリワークルームが、卒業生のお話を参加者が聴けるような会場に変身させます。
交流会のメインイベントは、卒業メンバーへの在籍メンバーのインタビューです。
在籍メンバーが、卒業メンバーにお話を聴くのです。インタビュアーの仕事は、在籍メンバー全員で担います。どの参加メンバーも、卒業メンバーに質問し、卒業メンバーの話を聴き、対話していくのです。
準備段階で、事前に質問項目を決めました。リハーサルも実施しました(在籍メンバー同士で、卒業メンバーとインタビュアーのロールプレイをしました。)
そうした準備作業の中で発見できたことがあります。
大事なのは、準備された質問項目を、機械的に質問をすることではない。
いかにインタビュアーである在籍メンバーが、メンバー自身の心境を伝えながら、卒業メンバーにインタビューできるか、という視点でした。

復職に向けてリワークで取り組んでいるけれど、壁にぶつかっている。
復職しても、あの苦しかった職場に果たして溶け込めるのか、とても不安だ。
リワークプログラムでなかかな思うように積極性を出せない。

このようにして、各メンバーの現在の経験を言葉にしながら、かつてはCRESSで同じように壁つぶつかり、復職に怯え、リワークで発言できずに苦しんでいただろう卒業メンバーに、そして現在では、職場で同じような経験をしながらも粘り強く働いているる卒業メンバーに、訊きたいことを、質問していく。

そういう質問こそが、卒業メンバーの心に届いて、卒業メンバーが自分自身の経験を、在籍メンバーに語りかけてくれるのではないか。

当日は、全員がそういう問題意識を持って、臨みました。

交流会のインタビューで顔を合わせるインタビューイの卒業メンバーと、インタビュアーの在籍メンバーは、ほとんど初対面の組み合わせです。

しかし、インタビューでの対話を私は聞きながら、リワークでの在籍時期の違いを越えて両者がまるで、同じ時期にCRESSでともに復職を目指して力を合わせているメンバー同士が語り合っているように思いました。

卒業メンバーは、当時CRESSで復職に怯え、リワークで苦しみ、しかしそれを一緒に乗り越えていったメンバーと心の中で再会しながら、現在の職場での体験を、在籍メンバーに伝えていました。

その話に、自分の経験を重ねあわせながら、在籍メンバーが耳を傾けている。

交流会に参加された方たちが、とても大事は心の交流を持たれたことを、私は確信しています。

卒業メンバーの皆さんには、それが明日の職場へと踏み出す力になることを信じてもらいたいと思います。

在籍メンバーの皆さんには、CRESSでの経験の積み重ねが、復職につながることを。そして、今度は、交流会で在籍メンバーに語りかける人になっていることを、信じてもらいたいと思います。